深井戸用水中モータポンプ技士資格の維持について(案)

 社団法人地下水技術協会では、昭和46年に基本事業として「深井戸用水中モータポンプ技士」資格試験の構想を立ち上げ、 翌昭和47年7月に最初の資格試験受験者の募集を、協会機関誌に掲載した。 以後平成18年度までに、再試験に合格して「深井戸用モータポンプ技士」資格者名簿に登録された者は、427名に及んでいる。

 試験の目的は、ポンプ技術の向上発展をはかり、「深井戸用水中モータポンプ技士」としての誇りと自覚をもって、 社会の信頼に足る技術者を養成することとあり、「深井戸用水中モータポンプ」の設計,工作、組立て,据付け、 保守等を対象に本試験を実施し、さらに合格者に対して5年後に、実務経験にもとづいた解答を期待する再試験を行って、 その再試験合格者に対して、登録証を授与するものであった。

 試験の実施に当って、試験委員には昭和34年に、本協会の前身「井戸とポンプ技術研究会」発足以来深井戸用モータポンプの開発、 改良設計に深く係わってきた学者・技術者が参加してきた。

 平成12年12月1日 「公益法人に対する行政の関与の在り方について」閣議決定が行われ、いわゆる公益法人への委託、 推薦等を受けて行っている検査・認定・資格付与等の事務・事業及び国からの公益法人への補助金、委託費等について、 大幅な改革が実施されることになった。
このうち、公益法人が国の代行機関として行う検査、検定等の事業については、平成14年3月29日閣議決定で、 事業者の自己確認、自主保安を基本とする制度に移行することを基本原則とすることが示された。

 平成14年3月29日付、平成18年6月16日付改正「公益法人に対する行政の関与の在り方の改革実施計画」(閣議決定)によれば、 「公益法人が独自に行う技術審査等の事務・事業に対する大臣認定その他の推薦等については、 当該事務・事業が法律で定められた国の事務・事業ではないこと、 民間において実施されている各種技能審査等の間における差別化を必要以上に助長するおそれがあること等の観点から、 一律に廃止する。また、今後同様の推薦等はこれを行わないこととする。」と定められている。

 本協会の基本事業である「深井戸用モータポンプ技士」資格試験が、大臣認定等の関係で過去にどのように扱われてきたかの記録は、 現在見当たらない。ただ言えることは、今後は大臣認定の資格にはなり得る機会はないだろうということである。

 平成13年度以後、深井戸用モータポンプ技士資格本試験が行われず、本試験合格者を受ける形で実施される再試験が、 平成18年度以後現在まで行われていない理由について、どのような議論がなされてきたか、これを証明する記録はない。 しかし、実施されなくなったタイミングが上記決定時期とほぼ一致していることだけはいえる。

 資格検定試験案内によれば、試験は、深井戸用水中モータポンプの設計、工作、組立て、据付け、保守等の現場技術者を対象として、 社会の信頼に足る技術者を養成すること、並びにポンプ技術の向上発展を図ることにあり、 合格者には「深井戸用水中モータポンプ技士」の資格を付与して、誇りと自覚を持って業務に当るとされた。

 このことから考えれば、社団法人地下水技術協会が、深井戸内の水面より深い場所において電力で作動するポンプ (深井戸用水中モータポンプ)に関する独自の技能をそなえた我が国唯一の技術団体であることを掲げている限りにおいて、 国の認定あるいは推薦の有無にかかわらず、すでに「深井戸用水中モータポンプ技士」資格を取得した者に対してその技能を保証すること、 将来目標として当該試験を通じて技術を伝承し、有資格者を育成することに変わりはない。

 幸い、巷間のホームページでは、検索すれば「深井戸用水中モータポンプ技士」についての記事が現れる。 現在は、地下水揚水規制といわれる時勢で、深井戸群の本邦各地への配備はほとんど頭打ちとなり、 既存井戸の更新と設備の保守管理が業務の主体になっていると思料するが、災害時の民生保護安定対策に非常用地下水の利用を提案するなど、 この資格を有効に活用するための努力を惜しまないこと、偽物の出現を監視して必要な対策をとることが肝要である。

(文責 黒田和男)